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2010-08-16

メリー「わたし、メリーさんなの?」

1 :名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/08/12(木)
男「メリーさんってあのメリーさん?」

メリー「たぶん。わたしはメリーさんだと思うんだけど、何もかも忘れてしまって」

男「君はメリーさんだろ」

メリー「どうしてそう言い切れるの?」

男「台詞の横に堂々と書いてあるじゃないか」

メリー「ちょっと言ってる意味がよくわからないわ」

男「で、そのメリーさんが何の用で僕の家なんかに電話を掛けてきたわけ?」

メリー「あなたの電話番号だけ覚えていたから掛けてみたの」

男「僕とメリーさんは恐らく愛人関係でもなければ援交関係でもない、
  言わば何の関係もないはずだけど」

メリー「だってわたし、全ての記憶を失ってしまった悲劇のヒロインだというのに、
    あなたの電話番号だけ記憶に残っているもの。これって何かの運命よ、きっとそう」

男「メンヘラもしくはスイーツ()の可能性が高いと思われる。
  このまま何も言わず会話を終了させることで、彼女の呪縛は解けるのではないか」

メリー「誰と話してるの?」

男「むしろ今まで誰と話していたんだろう、これは夢だってどうして気付かなかったんだ」

メリー「とにかくわたしはメリーさんかもしれないってこと、それを覚えておいて。
    これからもちょくちょくあなたの電」

   ぶつっ


2.
メリー「わたし、メリーさんかもしれないお尻の小さな女の子。
    あなたの帰りを健気にずっと待っていたわ」

男「また君かよ。しかも何気なく、たった今仕事から帰ってきたことを知っているなんて」

メリー「わたしはメリーさんかもしれないんだから、メリーさんっぽくしておかなきゃ」

男「ただのストーカーですね、わかります」

メリー「ちーがーうー!わたしはストーカーなんかじゃなくて、メリーさんかもしれないの!」

男「さっきからかもしれないかもしれないってうるさいな。
  君の特徴を言ってみろ、君がメリーさんかどうか判別してやる」

メリー「ほんと?えっと、特徴、特徴は……お尻の小さな女の子」

男「それ最初に言った。たとえばそうだな、胸の大きさとか言ってみそ」

メリー「胸は、うーん、普通よりちょっと小さいかも……」

男「腰回りは?」

メリー「腰?細い方、かなぁ」

男「よし、君はどうやら僕好みの身体対象から大きく外れているようだ。電話を切りたまえ」

メリー「……あっ!?へ、へんたい!セクハラやろー!どうて」

   ぶつっ


3.
メリー「わたし、本当にメリーさんなのかなって不安になっちゃうお年頃の女の子。
    おはよう、いい天気ね」

男「僕の寝起き状態は一般人より格別に悪いと知ってて電話を掛けてきたんだな」

メリー「そ、そんなこと、知らなくて……もうしないわ」

男「誠意が足りん、ちゃんと土下座しろ」

メリー「……見えてるの?」

男「見えてるから、早く」

メリー「……ごめんなさい」

男「ダメだな。謝る気持ちがあるなら、服を脱がないと」

メリー「脱ぐ、脱ぎます、から、許してぇ……」

男「ほら、目をうるうるさせて、四つん這いになって」

メリー「ご、ごめ、ひっく、なさぃ……えぐ」

男「さて、当然だが僕は既に怒っていないしそちらの情景も見えていない。
  ここで質問をしよう。君の姿は今、どうなっている?」

メリー「え?…………ば、ばかぁっ!」

男「立派な痴女の完成ー」

   ぶつっ


4.
メリー「わたし、メリーさんだといいなぁってメリーはメリーは呟いてみたり。
    ……あら?もうこんな時間だったの」

男「僕の方は今まさに寝ようとしていたところなんですがね」

メリー「でもわたしは眠くないもの」

男「夜更かしはよくないんじゃないか、君はまだ子供だろ?」

メリー「こ、子供扱いしないで!出るとこ出てるんだから!」

男「ほう。では毛が出ていると言うのかね」

メリー「えっ、いや、まだ生え……!こ、このっ……!」

男「まあまあ怒るなよ、夜のトークってのは付き物だ」

メリー「あなたはどの時間帯でも変なことしか言わないじゃない!」

男「変なことって?」

メリー「そ、そういうことよ」

男「はて、意味がわかりませんなー?」

メリー「う、ううぅ~……もういい!!」

男「んじゃ、おやすみ」

   ぶつっ


5.
メリー「わたし、メリーさん修行中のメリーちゃん。元気してる?」

男「お約束のように電話してきてるけど僕らは何の繋がりもない関係だと再認識してほしい」

メリー「……何よ、休日だっていうのに家に篭もりっきりみたいだったから、
    わざわざ電話してあげたのに」

男「そうは言うがな、むしろ僕の境遇がそっくりそのまま君の境遇なんじゃないか」

メリー「え?」

男「僕に電話をしたってことは、君も暇なわけだ」

メリー「……」

男「図星」

メリー「うるさい!わたしはメリーさん(仮)だからいいの!」

男「はーい質問質問。メリーさんも休日は寝っ転がりながら
  テレビ見つつせんべい食って屁したりするんですかー?」

メリー「……しません」

男「じゃあ受話器の奥からメリーさんの声と共に、
  たまに聞こえてくるテレビ音らしきノイズはなんですかー?」

メリー「……もっ、もうあなたなんか死んじゃえ!ばーかばーか!」

男「自分で殺しに来ないところが君らしいよなぁ」

   ぶつっ


6.
メリー「えと……わたし、メリーの代行者の、メリーの妹です。
    代わりに電話してくるよう頼まれました」

男「ふむ、メリーさんの妹とな」

メリー「はい。あの、実は姉から伝言を伝えてこいと言われて」

男「僕に?」

メリー「そうです。伝言の内容は『先日は死んじゃえなんて言っちゃってごめん』と、
    あなたに謝りたかったようです。お世話をかけました」

男「いえいえ。でさ」

メリー「はい?」

男「君、メリーさんだろ」

メリー「…………さ、さあ、何のこと?」

男「口調戻ってるし、声同じだし、名前もそのままだし。なあ、やってて恥ずかしくなかったか?」

メリー「……ふ、ふふ」

男「ん」

メリー「そうよ、わたしはメリーさんよ!いつだってメリーさんなのよ!
    あなたがこんな子供騙しに引っかかる人間じゃないってことくらい知ってたわ!
    あえてやったの!あえて!!
    覚悟しておきなさい、次はもっと上手くやってみせるんだから!」

男「うわ、開き直りやがった。あいつ絶対顔真っ赤にしてるぞ」

   ぶつっ


7.
メリー「わたし、メリーさんだったと思うんだけど、
    メリーって名前の普通の女の子の様な気がしてきた。あなたはどう思う?」

男「少なくとも君は普通の女の子では無いと思う」

メリー「どういう意味よ」

男「だって君、簡単に身体的特徴を晒すわ僕の言うことを素直に聞いて痴態を曝すわ」

メリー「あ、あれはっ、あなたが騙したから……」

男「それでも尚、何度でも僕に電話をかけてくるって、そりゃもう変態以外の何者でもないだろう」

メリー「そんなことあなたに言われたくないわ」

男「否定はしない。仮に僕が変態だとすると君はド変態の域を行くことになるが」

メリー「……言っておくけど、これからは自分のペースに乗せられると思わないで。
    わたし、本気出すから」

男「え?僕のペ[自主規制]ス?」

メリー「っ……だからっ、変なこと言ったって無駄なの!もうやめ」

男「あれ?そういや君の妹さんとやらはどこにいったんだ?」

メリー「……」

男「……あ、今話してる子だっけ。やっほーメリーの妹さん、元気?」

   ぶつっ


8.
メリー「……わたし、メリーだけど」

男「おっ、妹さんか」

メリー「……」

男「最近姉のメリーからの電話が来ないな。調子はどう?」

メリー「……もう、やめてよぉ……」

男「うん?」

メリー「ぐしゅっ。いじわる、しないでぇ……」

男「ははは、何を言ってるんだ妹さんよ」

メリー「わた、しぃ……メリー、なんだからぁっ……」

男「……僕のペースに乗らないんじゃなかったのか」

メリー「ぅ、っく……ばか……」

男「いや、しかしやりすぎた。でも君は反応が凄く可愛いからな、からかいがいがあるというものよ」

メリー「かわ…………」

   ぶつっ

男「だが誤解されると困るから言っておこう。可愛いってのは初々しいという……切れとる」


9.
メリー「わたし、メリーさんごっこをしてる女の子のふりをした
    見習いメリーさんって設定で遊んでる名前だけのメリーさん。…………もしかして寝てた?」

男「……今も半分脳が寝てる」

メリー「そ、そう」

男「用件は?」

メリー「別に、大した用事があって掛けたわけじゃ……」

男「僕の声が聴きたかったのか」

メリー「違う!その……おやすみなさいって、言おうとして、」

男「ああ、律儀にどうも。じゃあな」

メリー「違っ……だからっ!」

男「なんだよ」

メリー「おやすみって言われたら……おやすみって返すでしょ、ふつうは」

男「はいはい、おやすみ」

メリー「……う、うん」

   ぶつっ

男「意味もなく起こされた僕ってもしかしなくても不憫なのでは」


10.
メリー「わたし、メリーさんっぽいこと全然してないって気付いちゃった。
    ねえ、どうすればいいの?」

男「僕は忙しいのである、後にしてくれたまえ」

メリー「忙しい?」

男「僕が今何をしてるか、君ならわかるだろ」

メリー「いつものは急に感じる第六感って奴で、そんなに都合よくわかるものじゃないの」

男「なら今から出すヒントを頼りに当ててみるがいい。
  ヒント1、僕の手は何かを握っています、そしてかいてます」

メリー「……わからないわ」

男「ヒント2、その手の動きは速いです、たまに休みます」

メリー「とりあえず手を使う作業なのね」

男「まあな。ヒント3、握られた物は棒状です」

メリー「棒……全然わかんない。
    ペンを持って、仕事で使う紙や書類とかに、何か書いてたり、する?」

男「ん?あ、ああ、うむ、当たり」

メリー「じゃあ本当に忙しいみたいね、ごめんなさい。改めて、また後日に」

   ぶつっ

男「確かに正解だけど、納得いかん」


11.
メリー「わたし、メリーさん……って言ってる余裕はないみたい、今日ばかりは……」

男「いつもより声が掠れてないか」

メリー「……風邪、引いちゃったかも」

男「あははははははは!」

メリー「……」

男「いや、すまない。
  メリーさんが病気になるとか初めて聞いたので笑う所かと思った、反省している」

メリー「ほんとに辛いんだから……」

男「じゃあ安静にしてなきゃダメだろ。風邪なのにぐだぐだ話してる場合か」

メリー「わたし、一人だもん……看病してくれる人なんか、いないもん……」

男「なら……尚更、絶対安静でいた方がいい。長引くともっと辛くなるぞ」

メリー「……わかった、ちゃんと横になるから…………がんばれって、言って……?」

男「よし、がんばれ。がんばって治して、また電話してこい。
  そして僕のモノが元気になった時並みに、元気になれ」

メリー「うん……ありがと」

   ぶつっ

男「……さて、聞いていなかったのか聞こえてなかったのか」


12.
メリー「わたし、」

男「自分のことメリーさんとか言っちゃってる電波系妄想少女乙」

メリー「……せめて美少女にしてくれてもよかったんじゃない?」

男「で、風邪は治ったんかいな」

メリー「あ、うん。治ったわ、お陰様で」

男「お陰様って、僕何かしたっけ」

メリー「んと、夢の中でね、優しい顔つきの男の人が、ずっと側にいてくれたの。
    はっきりとは覚えてないけど、あれはきっとあなただと思うわ。ありがとう」

男「どういたしましてと言うべきなのか悩むが。ふむ……不思議だ」

メリー「え?」

男「たぶんその頃の僕も夢を見ていた。可愛らしく凛々しい容姿をした少女に会い、
  その子の可憐な服を破り華奢な体を抱え込み[自主規制]した夢を」

メリー「こっ……んの……!」

男「まさかな、君があの少女であるという可能性は限りなく無いに等」

メリー「このえっちすけべえろえろ下半身大魔神!
    [ピー]がちぎれて[ピー]がはりさけて[ピー]もめちゃくちゃになって[ピーーーーーーーー]!!」

   ぶちっ

男「正直勃った」


13.
メリー「わたしだけど」

男「久々だな、一週間ぶりくらい……ん?いつも通りに名乗らんのか。ネタ切れ?」

メリー「この際、わたしがメリーさんなのかそうじゃないのかなんてどうでもいいの。
    わたしはあなたに怒りをぶつけたい、ただそれだけ」

男「君の機嫌を損ねさせる様な真似をしたか?この僕が?」

メリー「わたしの心に傷を付けた時のことを忘れてるなんて信じられない……
    胸に手を当てて考えてみなさい!」

男「いや、遠慮しておこう、どうせ凹凸の無い骨組みだろ。
  そもそもどうやって電話の先にいる君に触れろというのか」

メリー「だ、誰がわたしの胸に手を当てて考えろって言ったのよ!
    前回あなたが人の心情を汲み取らないで、
    ああいう発言をしたから未だに怒りが治まらないの!」

男「ちゃんと文字は伏せたぞ」

メリー「伏せたってその言葉がわたしの耳に入っちゃったら意味ないでしょ!
    あなたは馬鹿なの?死ぬの?」

男「なあ、罵詈雑言を吐くなら殺しに来ればいいんじゃないか、メリーさん的に考えて」

メリー「……」

男「怒り狂うほど僕のことが嫌いなんだろ?」

メリー「きっ……そういう意味じゃない!べ、別に、あなたのことは嫌いじゃないし、その、
    いつもいつもわたしにセクハラしてくるから、
    変態的な所だけ治してくれればマシになるっていうか、す……き、になるかもっていうか、」

男「ああちょっと待ってくれ、もう改行スペースが足りない。一旦保留にしよう」

   ピー

男「で、なんだっけ?僕が変態でなければ好きになるんだっけ?」

メリー「あくまでっ!かもよ、かも!」

男「つーかそもそも僕は変態じゃない。
  君と話している時だけ変態になる必要があり、それは例えるならお祓いのようなものなんだ」

メリー「はぁ?」

男「恐らく古来から伝わっているであろう、霊を退けるには自分を慰めよという言葉があってな」

メリー「自分を慰める?」

男「実際に慰めている訳じゃないが。そういう風な態度を取り続けていればいいのでは、
  と思って今の変態的な僕に至る」

メリー「ぜんっぜん、1%も理解できなかったんだけど。特に自分を慰めるって辺りが」

男「おい、嘘をつくな。君とはいえそこまで清純でもないだろう」

メリー「わからないものはわからないわ。
    わたし、古い言葉は元より、遠回しな表現の口説い言葉が嫌いなの」

男「そういえば前にもこんなネタを振って不発で終わったんだった。
  なんてこった、メリーが性的会話に反応して電話を切るという、
  お約束になりつつあるオチが使えなくなってしまった」

メリー「なにぶつぶつ言ってるのよ。それより元々何の話をしていたか、あなた、覚えてる?」

男「むしろ今の僕はその記憶が吹っ飛ぶほど、
  今回の性的ジョークに対する君の反応の薄さに動揺してる訳だが。
  さて、もう一度保留にしておこうか」

メリー「今日のあなたはいつも以上に変ね。……何だか、興醒め」

   ピー

男「くそ、メリーが僕の下ネタを聞いて恥ずかしがってくれなかったせいでオチが作れない」

メリー「や、やっぱりそーゆー……下品な所が嫌いだって、何度言えばわかるのよ……」

男「そう言われても。さっき言ったように、君を離れさせるためにはこの手段を使うしか、」

メリー「……わたしの電話がイヤなの?
    わたしに電話してほしくないから、わざと変態的な態度で装って嫌われようとしてるの?」

男「返答に困るな。決して君の電話はイヤじゃないが、
  嫌われようとしてるってのはあるっちゃあるかもしれ」

メリー「じゃあ、わたしのことが嫌いなのね」

男「なぜにそうなる」

メリー「そうね、わたしばかり嫌い嫌いって嘆いて……
    ただ、少しえっちなだけなのに、変に怒って……」

男「おーい」

メリー「わかった。わたし、すぐは無理だけど、ちょっとずつ大人になるから。
    あなたのセクハラを真に受けないで、大人の反応をしてみせるから」

男「おーい」

メリー「だからお願い。わたしのこと、嫌いにならないで……?」

男「まず君は落ち着け。もう何がなんだか、本当に何の話だったのか忘れてしまった。
  そうだ、保留はしないで電話を切ろう、そして今一度会話を全てリセットしてしまおう。
  オチ切れとか言うな。では」

   ぶつっ

メリー「…………どうすれば、好きになってもらえるのかな……」


14.
メリー「わ」

男「メリーたん」

メリー「…………は?」

男「冷静に考えりゃ君はメリーさんなどという高貴な存在ではないのだ」

メリー「な、なに言ってるのよ。ていうか最初の台詞に割りこ」

男「そう、君はメリーたん」

メリー「……その『たん』って何?」

男「メリーたんはただの噂もとい都市伝説から二次元の萌キャラとして降臨してしまった
  キモヲタの妄想、言わば理想の具現化、即ちキモヲタに犯されたメリーさんの慣れの果てだ」

メリー「よくわかんないけど、鳥肌が立つくらいすっごく気持ち悪い名称だっていうのはわかったわ」

男「実際のところ君がメリーさんらしさを発揮した所なぞ一度も見たことがないし、
  そちらの方が似合っているのでは」

メリー「何気に正論なのが悔しい……」

男「よし、次の電話から冒頭の台詞は
 『わたし、メリーたん。あなたのおうちに突撃らぶはぁと中なの☆』で頼む」

メリー「…………ちょっと、トイレ」

   ぶつっ

男「嫌悪感を催した様だな、計画通り」


15.
メリー「わたし、メリーs」

男「カット。前回の言葉を覚えていないとは言わせないぞ。君はメリーさんではなくメリーt」

メリー「ああもう!イヤ、絶対にイヤ!
    あんな吐き気のする言葉を使うくらいなら死んだ方がマシよ!」

男「本当は?」

メリー「……死ぬって言うのはちょっと、言い過ぎたかも」

男「ではワンモアだ」

メリー「それでもイヤ!」

男「なら仕方ない、これから一切君の電話だけ取らないことにするが」

メリー「そ……それもイヤ」

男「じゃあどうする?」

メリー「……い、一回だけなんだから」

男「おお」

メリー「わたし、メリー……たん。あな、あなたの、おうち……に、とっ、突撃、ら、らぶ…………
    こんなもん言えるわけ無いでしょッ!!」

   ぶつっ ぴー

男「ま、録音は済ませたけどな」


16.
メリー「わたし、ふあ……めりぃ……」

男「君もいい加減に学習しろ。いくらメリーさんと言えども深夜帯の電話は迷惑でしかないんだ」

メリー「わかってる……わたしだって寝てたもの」

男「まさか電話をするためだけにわざわざ起きたなんてことはないだろう。
  はは、皆まで言ってやるな」

メリー「……そう、おやすみって言うの忘れてたから……起きて電話したの……」

男「僕はいつ、君に対して、そんな恋人同士がやるようなことを求めたのかね」

メリー「あなたの意見なんて聞いてない……」

男「素直な返答をどうも。その声を聴いてる限りじゃ相当眠たそうなんだが、
  よく起きてまでやろうと思ったものだ、悪い方に感心する」

メリー「…………すきだから……」

男「好き?何がだ」

メリー「ふわぁ……んぅ……」

男「こりゃ頭回ってないな。しかし相変わらずメリーさんのメの字も働かない娘だ、
  こんなんでいいのか自称都市伝説」

メリー「……おやすみぃ……」

男「つーか人を起こすだけ起こしといて自分は少しはだけた寝間着姿でぬいぐるみを胸に抱きつつ
  指を銜えて無防備に夢心地かこのメリ公。でも君らしからぬ可愛らしいあくびを聴けたので許す。
  おやすみ」

   ぶつっ

17.
メリー「わたし、メリーさんとして責務を果たしたこと無いかも」

男「何を今更。つーか殺しに来る気がないだろ」

メリー「こ、殺しなんてしたくないもの。こうやって、電話をかけて怖がらせれば充分かなぁって」

男「僕の恐怖度を数値で表すならば、マイナス120度はいってるな」

メリー「どうすれば怖がってくれるの?」

男「Who are you?」

メリー「あ……あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ」

男「君は一体誰なのか今一度考えてみたまえ、さすれば道は開かれん。という意味です」

メリー「わたしはメリーさん……って、自信を持って言えないから……わかんない」

男「結局はただの普通の女の子に過ぎないわけだ、だから怖くも何ともない」

メリー「言ったわね、もう本気出すわ。今ここで、震え上がらせてやるんだから!」

男「ほう」

メリー「…………が、がおー!」

男「……うっ」

   ぴゅ ぶつっ


18.
メリー「……あの、大丈夫?」

男「君のせいでここ数日間か寝込んだ、慰謝料を払うべきだ」

メリー「そ、そんなに怖かったの?別に言うほど怖がらせるつもりじゃなかったのに……」

男「いや、してやられた。
  ちょっと僕以外の人に電話してあの言葉を言ってみろ、一発で昇天ルート確定だぞ」

メリー「言葉っていうか、ライオンの真似だったんだけど。少しでも怖がらせようとと思って」

男「なるほど、あれはライオンだったのか。そりゃ怖い、聴いた瞬間に出してしまったからな」

メリー「出す?」

男「くそ、僕としたことがあんな狙いすぎの媚びた萌えアクションに心を射止められてしまうとは。
  やるな、メリーさん」

メリー「……本当に怖かったの?なんか馬鹿にしてない?」

男「してない。むしろ今日から君を神と崇めてもいいほどだ。
  むしろ嫁だ。むしろ若奥様だ。結婚してくれ」

メリー「けっ……なな、ななななに言ってんのよっ!?」

男「いいじゃないか、
  君が人間だろうが幽霊だろうが怪物だろうがお構いなしに愛すると決めたぞ、僕は」

メリー「……今日のあなたはいつもより気持ち悪いし、正直、嬉しくないわ。さよなら」

男「ああ、ちょっと待ってメリィたん!」

   ぶつっ


19.
メリー「少しは落ち着いた?」

男「落ち着く?あーそういう意味か、確かに落ち着いた。すまん、前回の僕が迷惑をかけたな」

メリー「別にいいけど……あ、ひとつだけ聞いてもいい?」

男「僕のスリーサイズか、いいだろう、聞いて驚け。上から、」

メリー「き、聞いてないからそんなこと!言わなくていい!」

男「しょんぼりする僕であった」

メリー「……前回、け、結婚してくれって言ったじゃない。
    あれは、本当っていうか、その、本気なの……?」

男「そりゃ嘘だ。君だってわかってただろ、あの時の僕はおかしかったってことくらい」

メリー「そう……ね」

男「そもそも君と僕の間には物理的な壁は疎か、法的な壁もあってだな。
  言い換えてみれば人間と都市伝説、もとい大人と子供じゃ成立しないんだよ」

メリー「……子供じゃないもの」

男「声も胸も性格も幼さを感じさせる君のどこらへんが子供じゃないって?」

メリー「うるさいっ!」

   ぶつっ


20.
メリー「わたし、今とってもレトロな気分なの。どうしてか当ててみて」

男「偶然、いや必然だろうな。かくいう僕もレトロチックでね」

メリー「え、もしかして同じことしてたりする?」

男「この電話を受信する前の僕は暇つぶしにロック○ンをやっていたが」

メリー「あっ、奇遇!わたしも○ックマンやってるの!」

男「マジか、しかも現在進行形とな。てかメリーさんがゲームを持ってたという衝撃に僕は震えた」

メリー「○ン・○ホーテでぷれすて?っていう機械が安価で置いてあったから、
    その近くにあったロ○クマンと一緒に買っちゃった」

男「プレステだと?……ちなみにそのロックマ○のナンバーはいくつだ?」

メリー「ナンバー?ロッ○マン8 めたるひーろーず……?」

男「……君には一生理解できないものだろう。
  久しぶりに引っ張り出したファミコンの重量感に懐かしみ、端子の縁が黄ばんでしまったカセット
  (○ッ○マン2 Dr.○イリーの謎)にどこか物悲しさを感じるその心を」

メリー「えっ……?」

男「ゲームだけに限らず、レトロとはそういうものだ。出直してきたまえ」

メリー「だ、だって、ぷれすてって結構昔の物じゃ……」

男「もうよい、そなたとは話にならぬ」

   ぶつっ


38:94LX5bQpO
テレッテレレー

テレッテレレー

テレッテ!テレッテ!

テッテッテレレレレー


21.
メリー「あ、あの……もしもし」

男「む、そなたか」

メリー「ふぁ、ふぁみこんっていうの、買ってきたわ。これがあればレトr」

男「だから貴様は阿呆なのだッ!!」

メリー「ひっ」

男「よいかメリー、レトロの心は人が作りし古き物を見て、
  ただひたすらにこれは良い物だと感じる心ではない」

メリー「……は、はぁ」

男「古き物が時代を生き、尚風化すれど我此処に在りきとでも言いたげな様に胸が熱くなる、
  その心の有り様こそレトロなのだ」

メリー「ねえ……キャラが変わっ」

男「メリーよ!数多の蠅の音にも揺るがぬ無の心で聞けい!」

メリー「はいっ!?」

男「ゆとり乙」

メリー「……は?」

男「以上」

   ぶつっ


22.
メリー「わたし、め、メリー、さん」

男「そんなびくびくして、何に怯えてるんだ」

メリー「あ……戻ったのね。それで例の○ックマ○、難しかったけどクリアしたわ、凄いでしょ?」

男「……自分で言ってて悲しくならないか」

メリー「……どうして?」

男「僕が仕事をしている時、君は家でのうのうとポテチでも食いながらゲームをしていた訳だ」

メリー「あ、あなただってちょっと前まではやってたじゃない!」

男「僕のあれは暇つぶし、君のそれはニートという。
  しかも僕の場合は君のようにちんたらしてる訳でもなく、さくっとクリア出来るからな」

メリー「な……なによ、なによ!別にいいじゃない!はじめてやって、はじめてクリアしたんだもん!
    す、少しくらい…………褒めてくれたって」

男「何だ、褒めてほしかったのか」

メリー「……もういいわ、今更褒められても遅いんだから」

男「……よくクリア出来たな、偉いぞ。今度、僕の膝の上にでも乗って一緒にやってみるか?」

メリー「っ……ぅー……」

男「いや、子供扱いしちゃいけないんだっけか。すまn」

   ぶつっ


41:PAYeNkER0
健気だなぁ



23.
メリー「わたし、メリー、くちゅんっ」

男「どうした、風邪か」

メリー「たぶん、ただのくしゃみよ。お風呂から出たばかりだから」

男「そうか。ところで僕も風呂に入ってたんだが」

メリー「え、今?」

男「電話を取る前にな。今はバスタオル一枚でいる」

メリー「あ、そ、そうなの、ごめんなさい。じゃあ切r」

男「待て、確か風呂から出たばかりだと言ったな」

メリー「……うん」

男「そして開口一番くしゃみをした。つまり、君は、」

メリー「……残念だけど、服は着てるわ」

男「くそっ、お互いにタオル一枚だったらとてつもないロマンを感じるのに……寒いので切ります」

   ぶつっ

メリー「……っていうのは嘘で、実はあなたと同じだったり……」


24.
メリー「わたし、もぐもぐ、メリーさん」

男「なんか咀嚼してる音が聴こえるんだが」

メリー「ごめんなさい。ごくっごくっ、ぷはぁ」

男「……おい、飯を食いつつ電話か」

メリー「うん、今まではご飯を食べ終えてから電話してたけど、面倒くさくなっちゃって」

男「メリーさんがそこまで落ちぶれた奴だとは思わなかった」

メリー「そんなに酷いことなの?」

男「完璧なモラルの低下、これはもう手に負えん。
  絶対に今回の行動で君のアンチが増えたな、断言する」

メリー「で、でも……」

男「でもも糞も無い、君のした行いは圧倒的なイメージダウンに繋がる行為だ。
  覆しようがあるだろうか」

メリー「ひとりでご飯食べるの、寂しくて……」

男「よし、一秒後に覆された。今の発言でアンチは大きいお友達に戻ったぞ。
  そのまま僕とお話しようか」

メリー「……ううん、悪いことならやめるわ。だけど、食べ終わったら電話してもいい……?」

男「ああ、いつでも待ってる。
  なんていい話風にまとめてみたが、いまいちパッとしないのは僕の気のせいか」

   ぶつっ


45:XOSLno9n0
くっ…せめて…せめてテレビ電話に…!!



25.
メリー「わたしはメリーさん!
    ……かどうかは知らないけど、とにかくメリーさんのわたしだから速く出てよ!」

男「新手の詐欺だな、その名もメリーさん詐欺……なんだ、僕が最初からやられてたことじゃないか」

メリー「いい!?電話切らないでよ!?いいわね!?」

男「ずいぶん慌ててる様子の彼女だが、ここは一つ空気を読んで切ってみようか」

   しーん

男「放置するならせめて理由を言えよ。全く、メリーさんにあるまじき行為だ。もう切、」

メリー「きゃあああああああ!!」

男「WRYYYYYYYY!!」

メリー「はっ、はあぁ……怖かったぁ」

男「何やってんだこの野郎、危うく僕の鼓膜がオシャカだぞ」

メリー「だ、だって、お化けが怖くて」

男「……お化け?」

メリー「今テレビでやってる心霊特集、一人じゃ見れなかったから……
    あなたに電話しておけば少しは気も紛れるかなって思っt」

男「電話料金の無駄遣いなのでよい子は真似するな」

   ぶつっ


26.
メリー「わたし……はぁ、だるぅ」

男「遂に名乗らなくなったメリーさん、これから彼女は名無しの少女として生きるのだろうか」

メリー「面倒になっちゃったっていうか……
    うん、アレよ、今日は休日だし、休日病に掛かっちゃったの、絶対にそう」

男「毎日がホリデイだろうに」

メリー「……言い返すのも飽きてきちゃった。なんか面白い話でも聞かせて」

男「家の掃除をしていたんだが、そちらの方を終えてからじゃダメですか」

メリー「んー、うん、いいけど、掃除なんてしてたの?」

男「『なんて』とか言うな。僕が何をしてるかくらい感知出来るって設定だっただろ」

メリー「だから聞いたんじゃない。電話をする前は、雑誌っぽいものを見てる様子だったから……」

男「……掃除してて大分昔に買った雑誌とか週刊誌を見つけたらそりゃあ読むだろ、
  と言い訳してみる」

メリー「ああ、なんとなくわかるかも。……で、結局掃除はしてないのね」

男「まあ、掃除というよりかは、その雑誌を見つつ抜いていた、って言やよかったか」

メリー「ぬく?……あー、言葉の意味はわかんないけど、なんだかオチが読めたわ。
    説明しなくていいから、じゃあ」

   ぶつっ

男「エロ本で、っておい!久しぶりの下ネタだったのにオチで急に冷めるな!」


27.
メリー「わたし、メリーしゃっ……さん」

男「メリーしゃん?」

メリー「……」

男「メリーしゃん」

メリー「メリー、さん!」

男「メリーしゃん」

メリー「……そ、そうやって揚げ足取る人って嫌い」

男「でも僕は大事な冒頭のセリフで噛んじゃう君が好きだぞ」

メリー「すっ、ぅ、ああそう。かっ、勝手に言ってればいいじゃない」

男「メリーしゃんが好きだ」

メリー「っ……」

男「メリーしゃん」

メリー「うう、うるさい!揚げ足取りのあなたになんて好かれたくないわ!大っ嫌いなんだから!」

   ぶつっ

男「普通にからかった方が面白いな」


28.
メリー「わたし、そろそろ本気出すから。メリーさんらしく、やってみせるわ!」

男「喩えるなら、売れないラーメン屋が意味もなく
 『冷やし中華始めました』とグダるパターンだな、間違いない」

メリー「はいはい、そうやってバカにしてられるのも今の内ですよーだ」

男「バカにするも何も今までがそうだっt」

メリー「とにかく!……まず、あなたの住所を教えて」

男「断る以外に選択肢があるだろうか、いや、無い」

メリー「なっ、なんでよ!」

男「今こそ僕を感知出来る設定を使うべきだろ」

メリー「それは、たまにビビって来るもので……
    大体、その設定はあなたがどんな状態かわかるってだけで、場所までは、ちょっと」

男「つかメリーさんならそんくらい知っとけ」

メリー「いいから教えなさい!訪れるだけで殺しはしないから!」

男「教えたくないでござる」

メリー「……そういう態度を取るなら、上等よ」

   ぶつっ

男「……ん?」


29.
メリー「わたし、本気出したメリーさん。今回は公衆電話から掛けてるの」

男「外から?意味はわからんが、大変だな」

メリー「あなたが住所を教えてくれないから仕方なく決断したのよ、旅をするって!」

男「旅」

メリー「あなたの家を探す旅!見つけるまで帰らないっていうルール付きで!」

男「ルール付き」

メリー「お金はたくさんあるし、外での生活は困らないはずよ」

男「……ダメだ、馬鹿馬鹿しすぎてツッコメない」

メリー「わたしだってもう子供じゃないもの、やる時はやるんだからね」

男「『はじめてのおつかい』に出てるお母さん方の気持ちがわかってしまった今日この頃」

メリー「……子供じゃないって、」

男「わかってる。せいぜいがんばりたまえよ、僕は止めないぞ」

メリー「ぅ……あっ、待って、十円が足りないって、十円入れなくちゃ。
    お財布、あれ、お財布どこに、」

   ぶつっ

男「本当に大丈夫かよ」


30.
メリー「……」

男「ん、君か?そういや旅の最中だっけ。とりあえずおはよう」

メリー「……昨日、公園で寝たの」

男「まぁ、旅をするなら寝床の確保は必要だな」

メリー「……うとうとしてる時に変なおじさんが通りかかって
   『元の所に帰りなさい』って言われてアメくれたの」

男「……」

メリー「……梅干し味だったの」

男「一つ言っていいか」

メリー「……ん」

男「僕、これから仕事なんだ」

メリー「もっと心配しなさいよ!ていうか、こんな幼気な少女があなたのために旅に出てるんだから、
    悲しさのあまり堪えきれなくなって住所を教えてくれてもいいでしょ!」

男「なんだ、元気じゃないか。よかったよかった」

メリー「よくない!わたしがどれだけ辛くて寂しくて恥ずかしい思いを」

男「そんじゃ、行ってくる」

   ぶつっ


31.
メリー「おかえりなさい」

男「おお、丁度いいな、たった今帰ってきたところなんだ。感知でもしたのか」

メリー「それより聞いて。わたしね、今日一日ずっと、ずぅっと悩んでたの」

男「ああ」

メリー「樹海って所に行こうかなって」

男「おいシャレにならん、マジでやめろ。まだ三日も経ってないのにどうしたんだ」

メリー「……家に戻ったところでお母さんもお父さんもいないし、そもそも記憶がないし……
    お金はいっぱいあるけど」

男「……」

メリー「それに、もうここがどこだかわからないし、まともな食事もしてないし……」

男「近くの電柱でも見てそこの住所言え」

メリー「え……ここ、○○市、○○丁目……」

男「電話切るけど、そっから動くんじゃないぞ」

メリー「……?」

   ぶつっ

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まさか



32.
メリー「……もしもし」

男「さて、質問しよう。君は今、どこにいる?」

メリー「あなたの……実家」

男「どうしてそんなところにいる?」

メリー「さっきの電話が切れて、ずっと待ってたら、車が来て、女の人に連れられて、
    ここに入れてくれた」

男「その女の人は誰なんだ?」

メリー「……あなたのお母さん、って言ってた」

男「ああ、僕のお袋だ。なんでお袋が君を連れてったかは、既にそっちで話されてるだろ」

メリー「…………ぐすっ」

男「そう、僕が至急お袋に電話して、公衆電話の前に立ってる訳あり家出少女を
  家に入れてやってくれとお願いした訳だ。偶然近くで良かったな」

メリー「な……っで、あなた、が……っく、来ない……のよ……」

男「そりゃあアレだ、僕が行ったら……児ポ法とかアグネスとかが厳しいから、無理なんだよ」

メリー「ばかぁ……っ」

男「ありがとうくらい素直に言えんのか。
  ま、今日はゆっくり休んでまた明日話せばいい。じゃ、おやすみ」

   ぶつっ


33.
メリー「わたしよ、わたし。おはよう」

男「昨日はいい夢見れたか?」

メリー「あなたのお母さんに頭を撫でられて……気持ち良く眠れたわ」

男「お袋の手は太陽の手と呼ばれるほど暖かい手だからな」

メリー「ふふ、なにそれ」

男「……なあメリーさん、聞いてくれないか」

メリー「え?」

男「……君は……」

メリー「……」

男「……可愛いと思う」

メリー「かわっ!?な、なんなのいきなり!」

男「いや、素直な意見を吐露したまでで、特に他意は」

メリー「あっ、はーい、今行きます。
    ごめんなさい、あなたのお母さんに呼ばれちゃったから、また後でね」

   ぶつっ

男「……どうするかね」


34.
メリー「あのね、聞いて聞いて!」

男「仕事帰り=疲れた=……後はわかるな?」

メリー「わたし、しばらくこの家に住んでいてもいいって!」

男「よかったねーぼくつかれてるんだーおやすみー」

メリー「ち、ちょっと待ってよ」

男「いいだろう待ってやる。ただし、あと三秒以内に用件を言わなかったら切る」

メリー「えっ、短……あなたはっ……こっちに、来ないの?」

男「行ってどうするんだよ」

メリー「……わたし、あなたに会いたいわ」

男「珍しく素直な君を見た。実を言うとここの処、ちょっとしたごたごたがあってな、」

メリー「イヤ。会いたいの」

男「では人の話を聞かない子は放っといて、寝るとしよう。じゃ」

   ぶつっ

メリー「……」

メリー「……ごたごた?」


35.
メリー「あ、繋がった?」

男「ただいま留守にしております。探さないでください」

メリー「留守かー。て、なんでやねん!」

男「……もう一回」

メリー「な、なんでやねん」

男「この現象はたまにある。
  聴き慣れている声だが、いつもと違う口調で喋られると胸が熱くなる感じ。
  しかも君の場合はロリ声だから尚更だ」

メリー「……また変なこと言って、わたしがしようとする話を封じ込めるつもりね」

男「バレたか」

メリー「もうわかってると思うけど、わたし、普通の女の子よ、きっと」

男「メリーさんごっこ卒業の時期ですか」

メリー「ううん、わたしは紛れもなくメリーさんなのよ、それだけは覚えているもの」

男「意味がわからん。君、会話を破綻させようとしてないかね」

メリー「……わたしだってわからないわ。気が付いたら親がいなくて、お金だけがあって、
    あなたの電話番号が脳に浮かんで、それから……わたしの名前はメr」

男「すまん、改行規制に引っかかるからトイレってことにして、保留にしよう」

   ピー

男「はいはい保留解除っと。で、なんだっけ?」

メリー「……ほんと、ムードを感じ取れない人ね」

男「恐れ入る」

メリー「……先に言っておくわ、ごめんなさい」

男「ん」

メリー「わたしって、何回か、あなたが何をしていたか当ててみせた時があったじゃない」

男「僕が仕事から帰ってきた時とか、家に篭もってる時とか」

メリー「そう。あれ、全部嘘なの。本当は勘で言ってたの」

男「知ってるよん」

メリー「……へっ?し、知ってる?」

男「君のことだから、嘘でもメリーさんらしくしておきたかったとか、
  そんな理由で見栄を張ってたんだろう」

メリー「う……」

男「最初は驚いた。しかし期待を裏切って悪いが、
  だいたい僕は君があのメリーさんだなんて、初めから信じてなかったぞ」

メリー「……」

男「おっと、改行規制が。まあいいか、保留にしなくても。このまま話を続けようか」

メリー「だからわたしは、本当のメリーさんみたく怪奇現象を起こせるわけでもないし、
    あなたを恨む理由もない」

男「ならば、どうして僕の電話番号を知っているのか、どうして君は『メリーさん』なのか。
  もう一度そこから考えてみようず」

メリー「……わからないわ、記憶が無いもの」

男「厄介だな、記憶喪失。というか君から聞いた限りの情報じゃ曖昧すぎる。
  どこからどこまでの記憶が吹っ飛んだのか、それを知りたいんだが」

メリー「ねえ、そんなことはもう、どうだっていいの。わたしが普通の女の子だってこと、
    これだけでもあなたにわかってもらえれば、それでいいの」

男「おーい、真面目に考えてやってる僕をさて置いて、記憶を無くした本人が思考放棄ですか」

メリー「……記憶を取り戻して、わたしにどうしろって言うの?
    親がいなくて、帰れる所もないわたしに……」

男「辛いだろうが、君にとって思い出すべき大事な記憶もあると思うぞ」

メリー「そんなものいらない!だからっ、あなたに会いたいの!」

男「……」

メリー「いつの間にか独りぼっちで、悲しくて怖くて寂しくて。
    あなたに会いたくて、甘えたくて、ずうっと我慢してたんだから!」

男「……なあ、後ろの方でお袋が何か言ってるだろ。君のことを気にかけて──」

メリー「なって……なってよ、わたしのお父さんになってよ!」

   ぶつっ


36.
彼女のとんでもない爆弾発言に驚き、ついつい電話を切ってしまった。

でもまあ、少しでも彼女の思いを理解できたからよしとする。
あれが、彼女のありったけの素直な気持ちなんだろう。

兄でも彼氏でも旦那でもなく、お父さんになってと彼女は言った。

それも先の発言によると、僕に会いたいとか──
それらの本音を吐き出すことを、ずっと我慢していたらしい。

…………待てよ。

なぜ『お父さん』なんだ?

今、彼女の側には僕のお袋がいる。包容力のある『お母さん』じゃダメなのか?

…………。

もしも、彼女が父子家庭だったとしたら……。

…………。

…………。

……知り合いに一人、子供と二人で暮らしている人がいた。

僕の勤務先の同僚で、僕より年上の、とても穏やかな人だ。

だけど、その人は、

男「あ、お袋さん、今日も麗しい美声ですね。はいはい普通のお世辞だから気持ち悪いとか言わない。
  あのとんちき娘に替わってくれないか?」

メリー「……もしもし」

男「よ。こっちから掛けてみた、仮にも実家だしな」

メリー「今、あなたとは話したくないわ」

男「いや、昨日はすまなかったけど、そう言うなよ。声を交わすだけじゃないか」

メリー「……用件は何?」

男「たまには僕の方から話を振ってやる。おとなしく聞いていたまえ」

メリー「聞いてるだけでいいの?」

男「……相槌くらいは必要だよな、うん」

メリー「はあ……わかった。早く話して」

男「まず、僕には仕事の同僚、っつか友達がいるんだ。奥さんとは離れた、子持ちのな」

メリー「つまり、その人は離婚済みなの?」

男「そんなストレートに言うな。でも、離婚した理由が見つからないほど温厚で優しい人なんだよ。
  浮気もしなさそうな、誰かの為にがんばれるタイプの人間で」

メリー「いい人なのね。それで?」

男「最近、自殺したみたいなんだ、その人」

メリー「じ……さつ?」

男「ああ。外の、滅多に人が通らない場所で。
  実際に遺体が見つかったのは、そうだな、僕が『ごたごた』があったって言った日だな」

メリー「……」

男「それも自殺してから数日経ってるって。道理で勤務先に顔出さなかったわけだよなぁ」

メリー「な、なんて言えばいいか、わかんないけど……あの……」

男「励ましはいらん、案外元気だから。
  ただ遺体が見つかる前に、その人の家を訪問したり、電話したり、何日も繰り返したわけだが」

メリー「……うん」

男「一度も応答が無かった。……この時点で、おかしいと思わないか?」

メリー「え?」

男「子供がどこにもいないみたいなんだ。
  通ってた学校にも来ていない、父と一緒に遺体が発見された訳でもない」

メリー「……ねえ、その話、なんか怖くて聞きたくないわ、いつ終わるの……?」

男「すまん。とにかく一言で言えば、子供が行方不明という話」

メリー「本当にそれだけ?あなたは……大丈夫なの?」

男「大丈夫だって。それより、心配するなら今の話の子供だ。
  明日か明後日には僕の、その、死んだ友達の家を強行して入って、捜索するっていうから、
  もしかしたら……」


37.
男「で、唐突だが君に質問ターイム」

メリー「……急に何よ」

男「君に母親はいたのか?」

メリー「いると思うわ、『思う』だけ。……何度も言うけど、記憶を失ってるの、わたし」

男「君の家にはアルバムとか、思い出が残されている物が一つも無いということだな?」

メリー「……知らない。探してないもの」

男「なら、父親は?」

メリー「もう、やめて。詮索しないで」

男「友達すら覚えてないわけは無いよな?」

メリー「……やめてってば」

男「なあ、メリー。明日にでも会おうか、僕と」

メリー「……」

男「そんで君の家に案内してもらって、思い出を一緒に探してやる。それでいいんじゃないか?」

メリー「やだ、やだっ!やめてよ、そんなものいらない……いらないんだから!」

──僕はこの子の正体を、つい最近知ってしまった。
しかしそれとは別に、この子自体を知ったのは、今から何年前のことだろうか──。


同僚「──ありがとう、わざわざ娘の誕生日に来てくれて」

男「僕で良ければ、な。大したプレゼントは持ってこれなかったけども」

同僚「娘を祝ってくれるだけでもありがたいことさ」

男「……お邪魔します。ん?」

「…………」

男「はじめまして、しがない仕事人の男と言うものです。お父さんから聞いてない?」

   ふるふる

男「え、聞いてないって。そうしたら僕は君にとっちゃただの恐いおじさんじゃないか」

同僚「こら、この前話しただろう。おまえを祝ってくれる人が来るって」

「…………」

   ふるふる

男「聞いた覚えはないらしいですよ、『お父さん』」

同僚「……はは、こいつは照れ屋でね。こういう時に困るんだ」


38.
同僚「包丁包丁、っと」

男「手伝おうか」

同僚「三等分にするだけだが……」

男「いや、上手く切れるかなって」

同僚「馬鹿にするんじゃない。
   こんなくたびれた手でも、毎日娘に飯を作ってきてやったんだ、これくらいは出来る」

男「さすがお父さん」

   じー

男「……そうだな、当事者の君を祝うつもりで来たんだ。先にプレゼントを渡しておこうか」

「…………」

男「これ、開けてごらん」

「……?」

男「爆弾じゃないから安心していいよ」

「……あ……」

男「オルゴールっていうんだ。使い方はわかる……かな?」

「…………」

男「ここのネジを巻くと」

   ~~~

「……この曲」

男「わかる?」

「うん、好きな曲」

男「へえ、よかった。プレゼントして正解だったよ」

   ~~~

「名前が好きなの」

男「名前?」

「曲の名前。可愛いから」

男「じゃあひつじが好きなんだ」

「ううん、違う」

男「違う?ああわかった。今日は君に可愛い名前を付けて、こう呼ぼう──」


39.
男「……メリーさん」

メリー「……もう切るわ」

男「好きな曲を教えてくれないか?」

メリー「は……?別に、無いけど」

男「当ててみせようか」

メリー「無いって言っ」

男「メリーさんのひつじ」

メリー「て……」

男「君の家にそのオルゴールがあるだろう」

メリー「…………どうして?」

男「僕が君にあげたから」

メリー「……ちょっと待ってて」


メリー「ね、この音、聞こえる?」

   ~~~

男「ああ、これだよ、メリーさんのひつじの……オルゴール」

メリー「記憶の端っこで、これは大事なものだってことだけ覚えてたから、
    家を出る際に持ってったの」

男「……自身を必死に『メリーさん』だと自称していた理由はそれか。とんだメリーさん違いだな」

メリー「……あなただったのね、これ、くれたの」

男「思い出したか?」

メリー「……ううん、何も」

男「……そうか」

メリー「わたしとあなたは知り合いだった。
    それを証明出来ただけでもいいじゃない、あとは何もいらないわ」

男「……なあ、その言葉の意味はわかってるよな?」

メリー「え?」

男「君は僕を知らなくても、僕は君を知ってしまったことになる」

メリー「……」

男「僕は君に、君のほぼ全てを教えなくちゃいけないんだ」


40.
男「聞きたくないよな」

メリー「……」

男「だけど聞かせなくちゃいけない。
  一つの繋がりを証明してしまった以上、もっと他の繋がりを証明させる必要がある」

メリー「……」

男「……さっき話した同僚の子供、それは……」

言ってもいいのか?

言わないと先に進まないんだ、だけど。

まだこんな幼い子供に言う必要があるのか……?

男「…………」

メリー「……明日、会えばいいじゃない。ここで待ってるから」

男「あ……ああ」

メリー「そして、会って、言って」

そこで電話は切れた。


41.
   ぴん ぽーん

男「お袋さーん、僕ですよ、僕ー」

男「おいおい、ここまで来たのに入れないとか……」

   がらっ

男「……お?」

男「おはよう、メリーさん」

メリー「……」

容姿は変わっているが、辿々しくてあどけないその様は何年か前に会った同僚の娘と同じで、
目の前の少女は確かにあの娘のままだった。

男「一応、君は記憶を失っている様だから、はじめましてとも言っておく」

メリー「……わたしが」

男「ん」

メリー「わたしが想像していたほど、格好良くない」

男「イメージを崩してしまってどうも悪うございましたよ」

メリー「でも温かくなるわ、あなたを見てると」

男「……玄関だから、日照りのせいで熱く感じるんだよ。そろそろ中に入れてくれ」

男「お袋、勝手にクーラー付けさせてもらうよ。え、扇風機がある?」

メリー「知らないの?クーラーの風ばかり浴びてると暑さに対する免疫が薄れていくのよ」

男「なんというか、会ってみて改めて感じるよ。君はませた子だな、って」

メリー「……うるさいわね」

男「はは」

メリー「……」

僕は何をしにここへ来たんだ。この子の顔を拝むため?いいや、それだけじゃないだろう。

僕は……。

男「決めた」

メリー「……?」

男「君を遊園地に連れて行こう」

メリー「え、な」

男「お袋、この子と遊園地に行ってくる。車のキー貸してくれ」

メリー「ちょっ、待っ」

男「そんなに遅くならないから心配しなくていい。んじゃ行ってくる」


42.
   ブロロロロ

男「君はすぐに酔うタイプ?」

メリー「別に」

男「そうか。じゃあ飛ばして行こうかね」

メリー「ねえ、話って」

男「音楽でもかけるか。えーっと、井上陽水、天童よしみ……なんだこりゃ、最近のはないのかよ」

メリー「……」

男「お袋は僕より昔を生きた人だからなー。よしメリー、君の十八番を歌うんだ」

メリー「急に何よ」

男「君にメリーさんのひつじを歌ってもらおうと思う」

メリー「イヤに決まってるでしょ!その井上なんとかって人の歌でいいじゃない」

男「でもな、これ子供向けじゃない……」

メリー「どうでもいいから付けなさいよ……ああもう、わたしがやるわ。ここ押せばいいの?」

男「そこ、だけど……まあいいか」

「──夏が過ぎ かぜあざみ──」


「────私の心は 夏模様」

メリー「……」

男「いや、僕はこの歌好きだけどな、君にとっては面白くも何ともないだろう」

メリー「……わたしは、きっとこんな風にはなれないわ」

男「こんな風?」

メリー「『あの頃は良かった』って言えるような今の、
    少女でいられる時代を、もう生きられないもの」

メリー「季節の流れも感じられずに、しんでいくもの……」

男「……」

メリー「見本となる親の背中を見ないで成長する子供なんていないわ。
    ……わたしは大人になれないのよ、もう」

男「……だから今日、君を遊園地に連れていくんだ。思い出を作りに」

メリー「形だけの同情なんていらない……あなたはお父さんになれないじゃない」

男「本当の親じゃなくても、君を立派な大人にしてやれるだけの技量はあると自負してるよ、僕は」

メリー「……」

……頼まれたからな──。


43.
男「──どうした、最近元気がないな」

同僚「ああ、男か……」

男「仕事も手付かずみたいじゃないか、何か悩みでもあるのか?」

同僚「俺、思うんだ。別れた妻は、今頃どこかの見知らぬ誰かに
  『あの人は馬鹿だった』って言い続けてるんじゃないかって」

男「そんなことは、」

同僚「そうなんだよ、男手一つで一人の娘を養えるわけがなかったんだよな……」

男「養えてるじゃないか、今充分に」

同僚「……借金を抱えて生きてるんだ、充分な訳がない」

男「な……借金?どうして、もっと早くに」

同僚「言ったところでどうしようもないさ。……男、俺のお願いを聞いてくれないか」

男「……ああ、金なら貸してやる。いくら──」

同僚「俺に何かあったら娘を頼む」


男「着いた着いた。いやしかし暑いな、人だらけじゃないか」

メリー「本当に入るの?」

男「ああ。こういうところは苦手か?」

メリー「……ちょっとだけ」

男「じゃあ、ほら」

メリー「なに、その手」

男「繋げば少しは落ち着くんじゃないか?」

メリー「べっ、別に……」

男「そうか、嫌なのか。なら仕方ないな」

   ぎゅっ

メリー「……これでいいんでしょ、これで」

男「んー?なんか手汗が凄いな、君」

   ばっ

メリー「こ……っのバカ!最低!もう帰る!」

男「おい待てって、僕達の番来ちゃったよ。あ、すみません、大人と子供一人ずつでお願いします」


44.
男「さーて、どこのアトラクションに行こうか、メリーさん」

メリー「……適当に行けばいいじゃない」

男「まださっきのことを根に持ってるのか?ちゃんと謝っただろう」

メリー「そうじゃない!……こういうのは男性がリードするものでしょ、ふつう」

男「この場合は残念ながら男性女性の問題じゃないな。大人は子供の意思を優先する、それだけだ」

メリー「っ……何よ、勝手に連れてきたくせに」

男「へーえ、ほーお、君はそういうことを言うのか。ならばこっちにも考えがある」

   ぎゅっ

メリー「痛っ。き、急に引っ張らないでよ」

男「じゃあこうした方が良かったか?」

メリー「……!?」

   ぐい

メリー「やっ……お、降ろしてよ!ちょっと、やだ……」

男「軽い軽い。これでだいぶ楽になったな」

メリー「もぉやぁ……恥ずかしい」


男「到着ー」

メリー「……いい加減に降ろしなさい」

男「はいよ」

メリー「で、ここは……」

男「身長制限は、うん。ギリギリオーケーっぽいな」

メリー「なんか連続三回転とか書いてあるんだけど」

男「楽しみだなー」

メリー「……他の所はないの?」

男「あるっちゃあるが、僕はこれに乗りたかったんだ」

メリー「わたしはいいわ。あっちのベンチに座ってr」

   がしっ

男「幸いにも並び時間はさほど長くない、一緒に乗ろうか」

メリー「イヤ!こんな物騒なものなんかに乗りたくない!」

男「普段ではありえない、物騒なものに乗れるからいいんじゃあないか。
  まさか君ともあろう者が恐がっているのか?」

メリー「……」


45.
男「……本当に三回転で終わったな。
  大したコースじゃなかったし、まぁ意外と子供向けというか君向けだったんじゃないか」

メリー「……」

男「おーい、メリーさん?[自主規制]された時みたいな目になってますよ?」

メリー「……あなたって本当に最低のクズだわ」

男「ごめんごめん。やっぱり恐かったんだな、そこのベンチで休もうか」

   ふらふら

メリー「恐いんじゃなくって、気持ち悪かった」

男「三回転もすりゃ気持ち悪くなるわな」

メリー「たぶん、眼つぶってたから尚更……」

男「誰かのキスでも待ってたのか」

メリー「ば、バカ!あの状況の中、そんな理由で目つぶるわけないでしょ!」

男「ならどうして?」

メリー「それは、こわ……」

男「こわ?」

メリー「……るっさい!それよりゆっくり休ませなさいよ!」


男「まだ気持ち悪いのか?」

メリー「うん……」

男「よし、僕が気持ち良くしてやろう」

   すっ

メリー「……変態」

男「え?手を触ろうとしただけで変態呼ばわり?」

メリー「……気持ち良くするって、何するつもりなのよ」

男「ほらよく言うじゃないか、手の平にあるツボを押すと気持ち悪さが取れるって」

メリー「先に言いなさいよ!」

男「そ、そこまで怒ることだったか……?」

メリー「はぁ、ここにずっと座ってたって仕方がないわ……なんだかお腹も空いてきたし」

男「これはつまり遠回しに何か食わせろと言っているのか」

メリー「あ、あれチュロスだって。そうね、甘いものが食べたいわ」

男「いつの間にやらメリーに逆らえないフラグが立っている気がする」


46.
   ぱくぱく

メリー「……んふふ」

男「歩くか食うか笑うかどれか一つにしなさい、お行儀が悪い」

メリー「チュロスって歩きながら食べるものじゃないの?」

男「いやツッコむところはそこじゃ……お、欠片が口元に付いてる」

   ひょい

メリー「あ……」

男「ん?」

   ぱく

メリー「……!!」

男「こんな小粒程度じゃあなぁ。ま、甘さが舌に残るだけでも充分か」

メリー「……そうやって、いつもいつも女の人を誑してるのね。わたしは騙されないわ」

男「あの、すみません、何のことだかさっぱり」

メリー「一生悩んでればいいじゃない」

娘を持つ父はこういうことが茶飯事のように起きていて、毎日首を傾げているのだろうか?
……だとしたら、今の僕はそれに近づいてきているのかもしれない。

──その一時の時間は長いように見えて短いものだ。

誰も催促しちゃいないのに、時計の針はどんどん速く回り続ける。

メリーはそんなこともお構いなしに振る舞い、今日の楽しい時間を精一杯過ごした。

明日があるさと言うように。

男「早いな。夕時だよ、もう」

メリー「ん」

男「なんだかんだ言って楽しめたよな」

メリー「……まあまあね」

男「まあまあ、か。イベントのパレードの時にはめちゃくちゃはしゃいでたくせにな」

メリー「べ、別にはしゃいでなんかなかったわ!大体、今考えてみると幼稚よ、あんな劇」

男「でもその時に楽しんでたことは事実だろ?」

メリー「……ん」

男「さって、最後に一つ何か乗って帰ろうか。
  今日一日僕がリードしてやったんだから、最後は君が何に乗りたいか選んでくれ」

メリー「ねえ、あなたってバカなの?最後なんだからあなたが選ぶも私が選ぶも、あれしかないじゃない」

男「……あれ」


47.
「はいどうぞーお乗りくださーい」

男「雰囲気的にこれってわかるけどさ、いや、しかし……」

メリー「何ぶつぶつ言ってるの?ほら、はやく」

   ぐっ

男「あー……遂に乗り込んじまった」

メリー「……もしかして最後に観覧車じゃ嫌だった?」

男「嫌じゃない、むしろこれでいいんだ、克服するためにも」

メリー「克服?」

男「HAHA、ナンデモナイヨメリーチャン」

メリー「……」

男「……」

別に僕がふざけたから空気が沈下したんじゃない。

かと言ってここに乗り込んでから、僕は高所恐怖症だからと告白して気まずくなったわけでもない。

この空気は僕が話し始めるのを待っている空気だ。

メリーの失った記憶を今、僕が埋めてやるしかないんだ。

男「……メリー──」

メリー「わたしね、今日、とっても楽しかった」

男「え、あ、ああ」

メリー「ここの遊園地が面白かったっていうのもあるけど、あなたに会えたことは元より、
    あなたと一緒に過ごせたことが何よりも楽しくてうれしかった」

男「そう言ってもらえると、うん、照れるな」

メリー「ありがとう、しがない仕事人さん」

男「どういたし……ん?」

『はじめまして、しがない仕事人の男と言うものです』

男「君……」

メリー「……記憶はちゃんとあったの。でも、思い出せなかった」

メリー「ううん、思い出したくなかった。記憶に触れるのがつらくて嫌だったわ」

メリー「だけど今日が楽しかったから、つらいことを思い出せた」

メリー「そういう意味でもありがとう、男さん」

こちらから話すまでもなかったらしい。僕は意図せずに行動したことで彼女の脳を和らげていたんだ。

ただ、彼女の言う「つらいこと」の予想はつくが、具体的な話を僕は知らない。
これから聞かされることになるだろうが──。


48.
   がちゃり

「──ただいま、お父さん」

「なんて、いないけど……」

「……今度の三者面談、来れるのかな……」

「どうせまた仕事……ね」

   すたすた

「あれ?机に……」

「……なんでお父さんのカバンがあるの?もう帰ってきてるの?」

「でも靴はなかったし……」

「……お父さーん、いるのー?」

   ひらっ

「えっ」

「紙?」

『──お父さんはもうダメなんだ』

『借金も返せないし仕事も上手くいかない』

『おまえを養えなくなってしまった』

『この先こんな俺の背中を見て、お前が立派な大人になれるとは思えなかったんだ』

『おまえのことを愛していたが、もうそんな資格は俺にはないだろう』

『あるだけの財産は残しておく』

『あと、おまえがいつも会いたがっている人の電話番号を載せておく。
 困ったときに相談でもすればいい』

『すまない』

『  どうか許してく れ』



「…………え」

「なにこれ」

「ねえ、三者面談は?」

「来ないの、お父さん」

「来てよ」


「──そこから自分の名前も昔の記憶も何もかも忘れてしまって、
 紙も捨てたのに、なぜかお父さんが書き記した電話番号だけが記憶に焼き付いてて」

「あなたにたどり着いたの」

「その後は電話するだけ、ひたすらあなたの声を聴くために電話した」

「……ずっと家にいたから。寂しくて、怖かったから」

「お父さんがいなくなって、毎日家の扉がドンドン鳴って、家の電話もガンガン鳴り響いてた」

「もちろん全部出なかったわ。
 一つでもどれかに応対してたら、あなたに二度と電話出来なかったかもしれないから」

「……その内、あまりにもうるさすぎて耐えられなくなって
『あなたの家を探す』という名目で家を出た」

「だけど外に出たって孤独は続いて……」

「……でもあなたとあなたのお母さんが孤独を打ち消してくれた」

「これが今覚えているわたしの記憶のすべて」

「もう、言い残したことは何もないわ」


49.
男「……」

メリー「……」

男「……ちょっといいか?」

メリー「なに?」

男「頂上まで来たな」

メリー「うん」

男「すごく恐い」

メリー「……は?」

男「……」

メリー「……ジェットコースターには乗れるくせに、観覧車は恐いってなんなのよ」

男「『しっかりして、お父さん!』って言ってくれれば立ち直れるかも」

メリー「む……無理よ。恥ずかしくて……急にそんな風には、」

男「……」

メリー「……し、しっかりして、おと……お、おとう……男、さん」

男「……はは」


男「もう出ちまったし、車の所に戻るかー」

メリー「……」

男「ん、どうした」

メリー「……ごめんなさい」

男「……はあ」

メリー「楽しくおしゃべりして明るくはしゃいで、
    最後まで暗くなることなく帰りたかったのに、わたしのせいで……」

男「このドラ娘め、謝る必要なんてどこにもないだろうが」

メリー「ううん、ちゃんと謝らなきゃ……」

男「そう思うなら行動で示してみろ。これから君は一人じゃなくなるんだ、
  近くの誰かがいれば永遠に暗くなることなんてないってことを、理解してくれ」

メリー「……」

男「そしてあわよくば僕をお父さんと呼んでくれ」

メリー「……急には無理って言ったでしょ」

男「立派なお父さんになって、呼んでくれる日を楽しみにして待ってるから」

メリー「……」

メリー「……もう」


50.
男「んじゃ、帰るか」

メリー「……うん」

   ブロロロロロ

助手席のメリーはずっと外側の窓の方を向いていた。

あれだけはしゃいだのに、眠くないのだろうか。

男「なあメリー」

メリー「……」

男「前に言っただろうけど。今日な、僕の仕事仲間と警察が同僚の家……
  君の家に押し入って家宅捜索をするんだ」

男「いや、もう終わってる頃だな、時間も時間だし」

男「それでな、君がいることを証明するためにも、その人たちの元に君を……」

メリー「……すう……」

男「……」

男「そうだな、今日は疲れたし明日でいいか」


男「家に着きましたよ、お嬢さん」

メリー「ん……もう?」

男「さあ出た出た」

   がちゃ

メリー「……速いのね」

男「そうだな……おし、この車のキー、お袋に返しといてくれ」

メリー「なんでわたしに頼むのよ、自分で返せばいいじゃない」

男「僕、もう家に帰るから」

メリー「えっ……と、泊まっていったりとか、しないの?」

男「したいところだけど、明日は仕事があるんだ」

メリー「……」

男「それに僕の家はここから結構遠いから、今帰らないとやばい時間になっちゃうしな」

男「明日また来るからさ」

メリー「……」

男「じゃあな、おやすみ」

メリー「待って!」

男「?」

メリー「そ……の……」

男「呼び止めた理由はなんだ、はっきりと言いなさいはっきりと」

メリー「……」

   たたた

男「?」

メリー「ばいばいっ、お父さん!」

   ちゅっ

   たたた ばたん

男「……」

男「バイバイ、メリー」

そうさ、明日がある。

時を待てば、君は大人になれるんだ。


51.
結局、家に着く頃には深夜帯を回っていた。

男「早く寝ないとな……」

部屋を移動しているとある物に目が留まる。

電話の留守電ボタンが点滅している。きっと例の仕事仲間からだろう。

眠気が半端じゃないが、押してみた。

「──○○だけど、ケータイで掛けてる。今、ほら、亡くなった同僚の家に警察と一緒に入っててさ」

「あいつの遺書っぽい紙が見つかったよ、ゴミ箱に入ってた」

「具体的には言えんけどその紙にはお前の電話番号が記されてて──
 いやまあそれよりも今は、もっと酷いことになってるんだ」

「……あいつの、同僚の娘さん、いただろ?」

「その娘さんがな、この家の中で、自分の腹に包丁突き立てて、死んでたんだよ」

「なんていうのかね、腐敗臭って奴が凄くてな、
 たぶんあの娘さんも自殺して数週間経ってるよ、たぶん」

「かわいそうだよな、父親がいなくなったからその後を追────」

   ぶつっ

男「……──?」


127:stdz7lJRO
oh……

129:a6QevZi30
嘘…だろ…



52.
お袋の家に電話をかけた。お袋が出た、眠たそうな声を出していた。寝ていたのだろう。

お袋に、そこにメリーがいるか確かめるように促した。


数秒経って、ほんの微かに小さな声が耳に届く。お袋の声だ。

「いなかった」お袋はそう言った。

お袋は混乱していた。無論、僕もだが。


メリーが同僚の家で死んでいた?

しかも死んで数週間経っている?

ならさっき会ったメリーは何だ?

今までのメリーは誰だったんだ?

僕は一体誰を相手にしてたんだ?

明日は、もう来ないのだろうか?

机に突っ伏して、とにかく考え込んだ。

メリーはどこに────

男「……」

朝だ。

どうやらいつの間にか寝ていたらしい。

頭が痛い。

だが仕事に行かなくちゃいけない。

しかし気力が出ない。

メリー。

僕を一度だけお父さんと呼んだメリー。

二度とその声と言葉を聞くことは無い。

涙は出なかった。

何がなんだか今でも理解できていなかったから。

男「……」

電話の留守電ボタンが点滅している。

ああそうか、もう仕事が始まってる時間だ。
みんなカンカンに怒ってるんだろうな、だから電話を掛けてきたんだろう。

無気力ながら、ボタンに手を伸ばす。


53.
「────……」

「わたし、メリーさん」

「……言い残したことは何もないって言っちゃったけど、まだあったわ」

「この『メリー』って名前、すごく好きなの」

「元は『メリーさんのひつじ』を聴いてから好きになったんだけど」

「昔、あなたがわたしのことをそう名付けて、呼んでくれたから、」

「とても、とっても大好きなの、この名前」

「すてきな名前で呼び続けてくれてありがとう」

「……あと」

「わたし、お父さんを愛してるわ」

「たとえ一日だけのお父さんだったとしても……」

「わたしにとってその日は記念日で、あなたが『お父さん』の日だから、覚えておいてね」

「……時間がないから、最後にもう一言」

「わたし、メリーさん。あなたの娘でいられてしあわせでした」

   ぶつっ

男「……」

いつもの声。

メリーだった。


今、ようやく気付いた。

そうだ、メリーは『お父さん』を求めていた。

あのメリーは死んでも死にきれず、『お父さん』を探していた。

そして昨日、僕が『お父さん』になってあげた。


涙が止まらなかった。

悲しい涙じゃない、これは嬉しい涙だ。

メリーは満足したんだろう。

満足して、お父さんと一緒になれたんだ。

──幾年かの月日が経った。

『記念日』が来る度に、僕は二人のお墓に足を運んでいる。

男「お、まだ無事だな、良かった」

足を運んでは、墓にずっと置いてあるお供え物に手を出している。

彼女が僕の実家に置きっぱなしにしていたものだ。

罰が当たるかもしれないが、彼と彼女のために毎回こうしている。

決して悪いことではないと思う。僕があげたものなのだから。

男「よし、鳴らすぞ」

   ~~~

かつて、彼女が好きだった音色を響かせた。

そのお供え物から発せられる曲につられてやってきたならば、君はこう言うだろう。


わたし、メリーさん。


   おわり


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